本を読みましょう

[実践 自分で調べる技術]宮内泰介・上田昌文(2019,10,20)岩波書店,272pp.

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現代版「知的生産の技術」である。

 

 梅棹忠夫の「知的生産の技術」が出版されたのは、1969年であった。当時爆発的な人気があったことを思いだす。周りでも、「京大式カード」を使っている研究者は多かった。私自身、膨大な量のカードを書きためていた。きりぬきを台紙に貼って規格化すること、アイデアをまとめる「こざね」方式、手書きからタイプライターでの原稿書きなど、知的生産にとって実に刺激的な内容であった。

 

 それから50年たって、この本が出版された。その間に世の中は大きく変わった。カードはパソコンソフトを使って作成し、KJ法を使って整理活用する。これは、京大式カード作成、こざね方式でのアイデアのまとめの現代版。きりぬきなどの資料整理は、山根方式の袋ファイルとそれの電子化方法が提案されている。かなタイプライターどころか、今ではワープロで簡単に原稿が作成できてしまう。隔世の感がある。

 本書は、情報の収集方法からはじまりフィールドワークの方法、リスク推定法、アウトプットの方法まで、実に親切丁寧に紹介している。世界に情報発信しようと考えている人にとって座右の参考書であろう。

 『人びとによる科学、人びとによる調査研究はいかに可能なのか。』の道案内が本書の価値であるとの著者のことばがうれしい。

 

[科学史事典]日本科学し学会編(2021,5,15)丸善,726pp. 24,200円 ☆☆☆

 

 大項目にそって読む事典である。例えば、「プレートテクトニクス その登場は本当に科学革命だったのか?」、「地質学の成立 地球の歴史をどうやって探るのか」など。従来の小項目によってつくられた事典と違って、科学の全体像を把握するためには、良く考えられた斬新な事典である。

 現代の科学は細分化され、その全体像をつかむことは専門家でも難しい。いや、専門家だからこそ全体像を理解することができなくなっている。一方,科学が社会に与える影響は年々極めて大きくなっている。地球温暖化や原子力発電所の事故などは、人類どころか地球上の生命体の未来をも決定するものである。人類はパンドラの箱の蓋を開けてしまったのかもしれない。

 地球の未来を考える上でも、科学のあり方を真剣に考えることが必要不可欠になっている。自然科学専門家はもちろん、文系の学問に携わる専門家、そして一般市民にも求められている。

 以上のような意味で、本事典は時期を得た図書である。多くの方に一読を薦める